冠を持つ神の手

冠を持つ神の手(二次創作コーナー)

ストーリー

登場人物

一押しシナリオ

攻略のヒント

ゲーム体験談

作者インタビュー

応援サイトに参加する

冠を持つ神の手 二次創作

追加シナリオ

小説

イラスト

お勧めサイト

作品を投稿する

シナリオ創作キット

シナリオの読み方

ユリリエを中心とした二次創作の小説「舞踏会は終わらない5」

ノベル特集

小説

MAIN CAST&SITUATOPN
ユリリエ / 憎悪Bにて、ユリリエに憧れつつ嫉妬した主人公が彼女と闘うお話

舞踏会は終わらない5

舞踏会にヴァイルが到着するまでの間、壇上から私は彼女の姿を探す。
彼女は必ずいるはずだ、彼女が舞踏会に参加しないはずはない。

さりげなく会場を見廻していると、私はついにその姿を見つける。
ユリリエ・ヨアマキス=サナン。
彼女は相変わらず美しい微笑みを絶やさず、こちらをまっすぐ見つめてきていた。
その胸には、私に対する憎悪や悪意が溢れているだろうが、彼女の表情からそういったものは読み取れない。
私も彼女を見つめ返した。私も微笑みを絶やさず、胸の中にある憎悪を見せないよう完璧に笑顔を作って見せた。
私は負けない、必ず貴女に勝って見せる。
そう心の中で強く呟きながら、けれど表情は穏やかな笑顔のまま彼女を見つめ続けた。

私と彼女とのにらみ合いはどれほど続いただろうか。
恐らくそんなに長い時間ではなかったと思うが、私にはとても長く感じられた。
私は決して視線を外さなかったし、彼女も表情を変えずにこちらをにらみつけていた。
はたから見れば、二人の少女が微笑みあっている、和やかな雰囲気に見えたかもしれないが、実際に私と彼女の間に漂っていた空気はどす黒い不穏なものだった。

その息が詰まるような空気は、新たな王、ヴァイルが現れたことで破られる。
会場内の至る所で歓声があがり、私は入り口の方から壇上へ向かってくるヴァイルに目をやる。
ヴァイルは以前から公言していたとおり、男性を選んだ。
やはり王の引き継ぎは忙しいらしく、継承の儀を終えてからほとんど顔を合わせていない。
篭りを終えてから手足がスラリと伸び、篭りの前までは、私とほぼ同じくらいの背の高さだったはずなのに、いつの間にか頭一つ分位、ヴァイルの方が、背が高い。
大広間を颯爽と歩くその姿は新しい若き王にふさわしく、威厳と若々しい力強さに満ちている。
壇上に上がったヴァイルに私が一礼すると、ヴァイルはニヤリと私に笑いかける。
その表情は、以前の悪戯好きな少年のままだ。
けれど、ヴァイルはすぐに表情を作り直し、新たな王としての口上を始める。
「お集まりの諸君。余がリタンテ六代目の王となったヴァイル・ニエッナ=リタント=ランテである。王として初めて迎える舞踏会に、大勢の者が駆けつけたこと、喜ばしく思う。
さて、余は先日継承の儀にて、正式にリリアノ前王より王位を授かった。
改めて申すが、これよりは余の治世、余の時代である。
ここにいる諸君は余の意思を汲み、余の忠実なる臣下として、余の力となることを信じている。」
ヴァイルは王として完璧に振る舞っている。
威厳に満ちた力強い声、会場内の人々の思惑を全て見透かすかのような鋭い視線、淀みなく続けられる王としての宣言。
去年までの、あの人あたりのいい気さくな姿のヴァイルからは想像もつかないほど、凛々しい姿だ。
若いヴァイルを丸めこんで、思い通りに操ろうと密かに目論んでいた貴族達もいただろうが、今日のこのヴァイルの堂々とした雰囲気は、そういった思惑を吹き飛ばす気高き意思を感じさせる。
「ところで、もう一人の継承者、ここにいるレハト殿の処遇であるが、先日の継承の儀で執り行われた通り継承権を放棄した上で、余の忠実なる臣下として力を尽くしてくれることとなった。余は、その信頼と友愛の証として、レハト殿に伯爵位を授け、特別に王の宝器庫より紅玉を下賜することとした。これからは、レハト殿もここにいる皆と同じ貴族の一員である。共に余の臣下として、民のため、このリタントのために心血を注いでほしい。」
ヴァイルのその言葉の後、私は一歩前に出て、微笑みながら会場に向かい一礼をし、一礼を終えてから一歩下がった。会場内を目だけで見まわすと、どの人たちも、私の胸元にある紅玉のネックレスに注目しているようだ。

王より授かりし紅玉。
宝石としての価値よりも、王から直々に、しかも王しか所有することを許されない宝器庫のものを一貴族が下賜されたということの価値の方が大きい。宝器庫のものを王以外のものに授けるなど異例のことだろう。
会場のすべての人が、その紅玉に視線を集める。
私はこの瞬間のために、口を彩る紅の色を厳選し、ドレスを慎重に仕立てた。
私がこの紅玉にふさわしいと皆に認めさせるために、準備をしてきた。
王より宝器庫のものを下賜される価値のある人間かどうかまでは証明できないが、
少なくとも、この紅玉の宝石としての価値を最大限引き出せる美しさを持つ人間であることは認めさせることができるだろう。
会場内の女性たちはこの紅玉の美しさに目を奪われるだろうし、男性たちはこの紅玉をつけた私の美しさに目を奪われるだろう。
私が舞踏会の、そして貴族社会の中においても準主役の立場だという存在感を皆に認めさせるために、この紅玉と額の印は大きな武器になる。
彼女との闘いを優位に進めていくためには、貴族社会の中で存在感を示す必要があるのだ。

「それではそろそろ始めるとしようか。我らが守護者、偉大なる御神アネキウスの恵みがこの国に変わらず降り続けんことを。」
ヴァイルの暗唱の後、会場にいる皆が唱和し、本格的に舞踏会が始まる。
いよいよ本当に始まるのだ。


大成功に終わった四度目の舞踏会の後、私のことは貴族達の間でも評判になっていたようだ。
「レハト様、先日の舞踏会でのご勇姿、拝見させて頂きました。特に、あのダンスは本当に素晴らしくてうっとりしてしまいました。ふふ、練習に付き合わせて頂いた甲斐があったというものですわ。貴族達の間でも、レハト様の存在を無視できなくなってきている様子でしてよ。もしかしたらレハト様が王になるのではないかと考えて、今から取り入る隙を狙っている輩も多いみたいですもの。」
あの舞踏会の後、顔を合わせた彼女がいつもの完璧な笑顔で語りかけてきた。私は内心、お前も私を馬鹿にしていたくせにと思っていたが、心を隠しながらにっこり笑ってユリリエのおかげだ、と返した。すると彼女は笑いながらも少し意地悪く言った。
「けれど、まさかこれ位で満足なさっているわけではないでしょう?その額の徴は神に愛された証ですのに。レハト様は王位を手にすることだって夢ではないのですもの。せっかく神から授かった王になる資格を、レハト様はみすみす逃してしまわれるのかしら。」
この言葉を聞いて、彼女の目的は、私を王にし、王配を狙うことなのだと、私は悟った。
王配にまではなれなくても、私が王になった時、私に近づいていて損はない。
もしくは、私が王にならなかった場合でも、私の印が手に入れば、それでもいいということなのかもしれない。
どちらにしても、彼女が私に近づいてきたのは、全て貴族として生き残るための、彼女の計算なのだとはっきりわかった。

私はその時やっとわかったのだ。これが貴族なのだと。
これこそまさに、私が憧れ、そうなりたいと願っていた貴族の本性そのものなのだ。

彼女が私に近づいてきたのは、少なからず私の事を貴族の一員として認めてくれたからだと、心のどこかで思っていた。彼女と同じ、貴族の一員になれたからだと信じたかった。
けれど、そんなのは、ただの私の願望だった。

私はしょせん、彼女や貴族達に狙われ、利用されるだけの存在なのだ。

私の心の中で、彼女に対する怒りがどんどん膨れ上がっていった。
「ねぇ、本当にレハト様は王位につく気はないのかしら?」
彼女の言葉に憤りを覚えつつも、冷静に対応しなければと思い直した。
王になるつもりはない、心を完全に隠しながら笑顔で答えた。

そうだ。彼女の思い通りになってたまるか。貴族どもの餌になどなるものか。
やつらが私を利用しようとするつもりなら、私がやつらを利用してやる。
やつらを私の餌にしてやる、やつらを思い通りに動かしてやる。
そう思うと、自然に笑みがこぼれた。
「あら、レハト様、それは残念ですわ。けれど、その額の徴は神に遣わされた者の証。王にならなくてもレハト様はきっと私たちに神のご意思を伝えて下さるはず。これからレハト様が何を目指され、どこへ向かわれるのか。これからの活躍を心から楽しみに見守らせて頂きますわ。」
そうだ、見ているがいい、私が貴族を利用していく様を。お前より上に立ってお前を屈服させるためにどうするのかを見ているがいい。
お前に思い知らせてやる。
私が神に愛されていると言うなら、その愛が貴族達に、そしてお前に何をもたらすのか、存分に見ているがいい。

それから年末までのひと月、私は心を隠して今まで以上に彼女との時間を持った。
貴族たちを操るためには、彼らのことをもっとよく知る必要があった。
彼女を陥れるには、彼女のことをもっとよく知る必要があったのだ。

貴族達のことに関しては、恐らく彼女以上に知り尽くしている人間はいなかった。
貴族達の勢力図、貴族達の策略、貴族達の思惑、貴族達の弱点。
彼女から語られる貴族達の様々な事柄は、私にとって大変有意義な情報だった。
それらの話を聞くと、今まで自分が貴族達のごく表面的な部分しか見ていなかったのだと思い知らされた。
しかも彼女の持つ情報量は半端なものではなかった。某侯爵夫人の好物がとある地方の果実酒だとか、某伯爵の子息が使用人に手をつけたとか、某公爵はとある神官を目的に王城の神殿に足繁く通っているとか。
伯爵位以上の、全ての家の事情を知り尽くしているかのようだった。
私はそれらの情報を一言も聞き洩らさないよう、必死で彼女の話に耳を傾けたのだった。

その中には彼女の家の事情もちらほらあった。けれど、致命的といえるような情報は一つも得られなかった。他人に漏れる事を用心しているのか、それともそもそもそんな命取りになるような事情を一つも抱えていないのかどちらかなのだろう。
用心しているだけなら、別の筋から聞き出せばいいことだし、致命的な事柄が一つもないなら、こちらで準備すればいい。
年末までの私は、彼女との時間を多く持ちながらも、彼女を陥れるために密かに準備を進めていたのだった。

例の紅玉もその時期に見つけた。
リリアノに王の宝器庫へ連れられ、中へ入り掃除の手伝いをさせられた時だった。
宝器庫の中にあるのは、ほとんどがルラントの時代から伝わる宝器の類であったが、隅の方に宝剣や絵画、宝石類など、趣の違う宝物類が固まって置いてあるのを見つけた。
私がそれらに目をやるとリリアノが言った。
「おやレハト、そこにあるものが気になるのか。確かにここにある古臭い宝器とは違うものだからな。いやいや古臭いなどというと歴代の王たちが聞いたら怒るか。けれども、そこにあるのはルラントの時代から続く宝器ではなく、貴族達が隠し持っていた宝物ばかりだ。目を奪われるのも無理はなかろう。」
私はその中でも一つの宝石箱が気になっていた。
「四代の事は聞いておろう。四代は貴族達が財を貯め込んでいることで民が苦しむと考えて、貴族達に無茶な税をふっかけたそうだ。まぁ奴等の己の利に走る性質を考えれば、四代の気持ちもわからんではないがな。だがやり方がまずかった。大抵の貴族達はその分の税を民に負担させて結局余計に民が苦しんだ事となった。民の為になした策が民を苦しめる結果になろうとは因果なものよ。」
リリアノは続けてそう言った。
「けれど一部の善良な貴族は、そこにあるような己の家の家宝としている宝物類を税のかわりに献上したそうだ。そんなわけだからそこにあるものは表に飾ったり、身につけたりしてはおらぬ。貴族達に四代を思い出させ、刺激することにもなりかねんからな。せっかく価値のあるものばかりだが、こうして人目につかぬところに追いやられているとは、いよいよ四代も因果な事をしたものだな。」
私はずっと気になっていた宝石箱に手をかけ、開けてみた。
その中にはまばゆいばかりの美しい宝石類が並んでいたが、中でも私の目に留まったのが一際大きく、輝きを放っている紅玉だった。
「こら、レハトよ。我らは継承の儀に使う宝器の掃除をしている最中だぞ。関係のないものをむやみにさわるでない。ここにあるものは全て王のものだ、そなたのものなど一つもない。ここにあるものが欲しければ王を目指し、王になるがいい。そなたにはその資格があるのだからな。」
厳しい調子でリリアノにたしなめられ、私はしぶしぶ宝石箱のふたを閉じた。
それからまた宝器の掃除を再開したのだが、私の頭の中はさっき見た美しく輝く紅玉で一杯になっていたのだった。

丁度そのころ、私は講師に国の税制について教えてもらっていた。リリアノはあの紅玉が四代の頃の税として徴収されたものだといっていた。あの紅玉がいったいどんな経緯で王の宝器庫に入ることになったのか気になっていた。私は心のどこかであの紅玉の美しさに心を奪われ、手に入れたいと望んでいたのかもしれない。
紅玉の出所を知るには、四代の頃の、貴族達の納税について記してある書物を調べる必要があった。けれど、私にはそのような国の財政について深く関わるものを見る機会はなかった。そこで私はリリアノに租税の勉強をするために、三代の頃から現在までの税に関する書物を見せてもらいたいと申し出た。
「ふむ、そなたの申し出はわかった。だが、租税に関する書物はそう簡単に外部の者に見せるわけにはいかぬからな。」
リリアノはそう言った後、しばらく考える様子を見せた上で話し始めた。
「しかし、そなたが国政に関わる事に興味を持ってくれたのは嬉しいな。本来なら認められぬことだが、特別に許可してやろう。」
リリアノは微笑みながら言った。
「どうして国政の中で、租税について関心を持ったのかは深く聞かぬ事としよう。」
思わせぶりな視線で私に語りかけたのち、取り巻きの文官の一人に、税に関する書物を見せてやれと伝えた。
本当は例の紅玉に関する四代の資料だけ見ればよかったのだが、カモフラージュのため三代から現在までの資料と言った。だが、リリアノは恐らく気づいていたのだろう。私があの紅玉に惹かれている事に。
私はその文官に連れられ、執務室に案内をされ、その場で書物を見せてもらった。
さすがにそれらの書物を持ちだすことはできないのだろう。三代やリリアノの時代のものはパラパラとめくって流し読みをしているふりをし、四代の時代の、税の徴収を記している書物を注意深く読んだ。読んでいるとリリアノが言っていた通り、異常に納税の量が多い年があった。恐らくこの年に例の紅玉は納められたのだろう。資料を読み進めていくと、
その紅玉について書かれた一文を見つけた。
私はそれを見た時、あの紅玉は、やはり私が手にするべきものなのだと確信したのだった。

AUTHOR / 作者 joeさん

その5