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ユリリエを中心とした二次創作の小説「舞踏会は終わらない8」

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MAIN CAST&SITUATOPN
ユリリエ / 憎悪Bにて、ユリリエに憧れつつ嫉妬した主人公が彼女と闘うお話

舞踏会は終わらない8

継承の儀までの時を大人しく過ごし、ランテ派の企みに巻き込まれることもなく、無事継承の儀をすませることができた私は、ヴァイルとリリアノの両方に面会を申し出た。
このように正式に面会を申し出て、二人に謁見することは初めてのことだった。
王の執務室で既に二人は待ち構えていた。ヴァイルの表情を見ると、少し緊張しているようだった。
「レハトよ。そなたがこのように面会を申し出るのは初めてのことだったな。このように正式に我々に対面を望むということは、先日申し渡した領地のこと、既に決めたのか。」
リリアノがそういうと、ヴァイルは少し不機嫌な様子で黙っていた。
継承の儀にて、伯爵位を与えられた際、私には治めるべき領地を選ぶように言われていた。私は爵位にふさわしいそれなりの広さの領地を王より預かることができるのだ。

私はリリアノに、領地とは別に、王様から頂きたいものがあると申し出た。
「ふむ、欲しいものとな。言うてみるがいい。ヴァイルが叶えられるかどうかわからんがな。」
リリアノにそう言われ、私は、王の宝器庫にある紅玉が欲しいと告げた。
それを聞き、リリアノの表情が厳しいものに変わった。
「前に言うたな、レハトよ。王の宝器庫のものは全て王のものだと。王にならなんだお主の物などひとつもないのだ。その印があるとは言え、そなたの勘違い、甚だしいにもほどがある。」
そういわれることはわかっていたので、私は考えていた通り、答えた。
確かにあの紅玉は、王の宝器庫にあるものだが、ルラント時代から伝わるような重要な意味を持つものではないし、私に与えたからといって王の正当性を失うようなことは決してないということ。
せっかく価値のある美しい宝石が、このまま宝器庫に眠ったままなのはもったいないということ。
王が冠を授かるのなら、貴族になった私がふさわしい何かを貰うのは、印を持つものに対する敬意を示すことになり、結果的に印を持つ王の権威を高めることになるということ。
私の返答を聞き、厳しい表情が少しだけ緩んだリリアノが答える。
「しかしそなたは、もはや印を持つ継承者ではない。そなたは継承権を放棄した一介の貴族であるぞ。そなただけに特別扱いをしたら他の貴族達が何を言い出すかわからぬ。とはいえ、ヴァイルよ。これは王であるそなたが決めることだ。先ほどから黙っているが、そなたはレハトの申し出、どう答える。」
ずっと不機嫌な様子だったヴァイルが口を開いた。
「あのさぁ、レハト。俺は王で、あんたは貴族。いくら印持ちが特別だっていってもそんな我がまま聞けるわけないじゃんか。レハトは何?俺に頼めば何でも言うとおりにできると思ってたわけ?そんな宝石別にどうでもいいけど、それレハトにあげたら俺が何か得するの?」
ヴァイルはケンカ腰の口調で私に問いかけた。
そして私は答えた。紅玉が貰えるなら、私に与えられる領地を王に返還すると。
「えっ、あっ、えぇ!?けど、それって・・。」
私の答えが予想外だったのか、ヴァイルは驚いた様子でそれきり口を開けたまま私を見て、固まってしまった。
その様子を見たリリアノが助け舟を出した。
「レハトよ、今の言葉本気か?領地を持たない伯爵など、貴族として特別な価値のない、名目だけの立場になるということだぞ。それでも良いと申すか。」
私は、あの紅玉が手に入るなら別に構わないと答えた。
「ふむ、ヴァイルよ。王としてこの取引、損はないと思うぞ。レハトの言うとおり、あの紅玉は歴史的な価値があるわけでもないしな。眠っている石ころの代わりに王が直接統治できる領地が増えるのはもうけものというものだ。王権を強化することとなり、そなたも少しは貴族相手にやりやすくなるやもしれん。どうする、ヴァイルよ。」
リリアノに促され、ヴァイルは神妙な面持ちで答えた。
「まぁ、レハトがどうしてもっていうなら・・。」
「では、決まりだな。レハトよ。後日我が紅玉をそなたの元に届けてやろう。もう下がるがよい。」
リリアノに言われ、私は二人に一礼をし、王の執務室を後にした。

私が部屋を出てすぐ、二人の声が聞こえた。
「ねぇ、伯母さん、今のって、レハト、このまま城に残るってことだよね。」
「ふむ、まぁそうであろうな。治めるべき領地のないレハトが他に行くとこもなかろう。城下に邸宅を持たせることもできるが、奴の印の事を考えると、このまま城に留めておくのが一番いいだろうよ。」
「けど、なんでだろ。レハト、ずっと故郷の事恋しがってたみたいだから、爵位を貰ったら、すぐ故郷の辺りに帰ると思ってたのに。そんなにその宝石欲しかったってこと?」
「どうであろうな、確かにあの紅玉のことは気になっていたと思うが、そんな宝石ごときで将来のかかった事を決めるほど、レハトは愚かではないと思うがな。我が思うに、奴にはもともと、この城を離れるつもりなどなかった気がするぞ。」
「えぇっ!それなのにレハト、あんな勿体つけて領地を返還するなんて言ったの?」
「ははは、それが交渉というものだ。いかに自分のカードが有利かを相手に示すのは基本だからな。すっかり貴族らしく振る舞うようになるとは、末恐ろしいことよ。お主、今の申し出でレハトが三つ得たものがあるのがわかるか?一つは紅玉、一つは城に留まる権利、そしてもう一つは城に留まるに相応しい名分となる役職だ。伯爵位を持つ者に何の仕事も与えず城に留まらせるわけにはいかんからな。レハトに相応しい何らかの役職を与える事が必要であろうよ。奴がそこまで考えていたとしたら、とんだ策士だな。」
「けど、やっぱわかんない。どうして城に残りたいって思うのか。伯母さんはどうしてだと思う?」
「レハトは聡いからな。自分の立場をよくわかっておる。継承の儀で王の継承権を放棄したとはいえ、奴は神から徴を授かった寵愛者だ。もし、そなたと我に何かあらば、王は誰になると思う?」
「俺たちが死んだらってこと?他に印持ちがいなかったら、やっぱりレハトがやるしかないんじゃないかな。」
「そうであろうな。継承の儀でのことなど、形式的な儀礼に過ぎぬ。実際、他に誰もいなくなればレハトが王位を継ぐ一番の候補者であろう。この国では印を持つ者しか王にはなってはおらぬゆえ、他の候補者を立てるには大義名分が立たぬ。」
「でも、それとレハトが城に残ることとどういう関係があるわけ?」
「ふむ、貴族達の中にも、我らランテの者が王を次々輩出することを快く思わないものもおる。もし、レハトが城を出て、王の息の届かない場所に行ってしまったら、そのような者達が、どうレハトを利用しようとするか想像がつくだろう。」
「あっ。」
「レハトが望もうが望むまいが、今の状況を変えようと考える輩はレハトに接触するであろうな。しかも、そのような輩がまともな手段だけでレハトを操ろうとは考えんだろう。だが、この城に留まれば、少なくとも王の目の届くところであれば、奴らもそこまで過激な手段にでることはできなくなる。レハトは恐らくそこまで考えているのであろうな。」
「レハトには、せめてレハトだけには自由にやっていってほしいって思ってたのに・・。」
「これも印を持つものの宿命と考える他ないな。王になろうがなるまいが、印の持つ宿命からは結局逃れられんのかもしれん。レハトも、我も、もちろんそちもな。」
「・・・・。」

私は二人の話をそこまで聞いた後、執務室の側を離れた。
リリアノが話した事は大筋で当たっていた。私には城を離れるつもりはなかった。治めるべき領地を持ってしまったら、私は城を離れなければならない。継承の儀は無事に済み、私にはすでに王位の継承権はないのだが、それでもランテ派が私に謀反の意思があると疑っている状態で、私が城を離れたりしたら、謀反のための準備を進めるのではないかとあらぬ疑いをかけられてしまう。
それだけでなく、リリアノの言うとおり、反体制派の勢力が活動を起こそうとするかもしれない。私はむしろ、企てを起こそうと計画していたランテ派の貴族達よりも、反体制派の動きの方を警戒していた。
彼らが謀反を起こそうと計画すれば、間違いなく私の存在が必要になる。そうなれば、私も彼らの謀反の企みの巻き沿いを受ける可能性は大きい。今現在、反体制派の貴族達にそのような動きは見られないが、今後そんな動きが増長しないとも限らない。私が王の目の届かない場所にいれば、彼らに隙を見せることになり、彼らがそんな気を起こすかもしれない。
領地を持って、貴族としての繁栄を目指すよりも、城に留まり、王に寵愛を受けている者として守られている方がはるかに安全だ。
今はまだランテ派の貴族達とは緊張関係が続いているが、近いうちに私は彼らと和解しなければならない。そしてその反対に、反体制派の貴族達とはある程度の距離を保たなければ、どんな策略に巻き込まれるかわからない。
王と近い距離を保ち、ランテ派の貴族達と協力して現在の体制を強化する立場につくしか、私が無事に過ごしていく道はない。彼女はそれを知っていたから、あえてランテ派の貴族達をそそのかし、私がすんなりランテ派の側につこうとすることを妨害したのだ。

しかし、私が城に留まる事を選んだのは貴族同士の争いを考えての事だけではなかった。私は、ヴァイルが本心では私に城に留まってほしいと願っている事を知っていた。謁見の間ずっと不機嫌だったのは、私が城を離れると正式に報告すると勘繰っていたからだろう。私が城を離れたくないと思った一番の理由はヴァイルだ。今はまだ、リリアノがいるが、一年もすれば王の引き継ぎを終え、ランテ領に戻ることになるだろう。そうなれば彼は一人ぼっちだ。この城に来てからの唯一の友達であり、私と同じ徴をもつ寵愛者だ。彼の本心を知っているのに、城を離れて暮らすことはどうしても考えられなかった。それに、もし、私が謀反の企みに巻き込まれたりしたら、私はヴァイルと対立する立場になってしまう。そのことだけは何があっても嫌だった。王と貴族という立場で、今までのように気安く付き合うことはできないかもしれないが、それでもヴァイルと対立しあう可能性のあることは絶対に避けたいと考えていた。
今日の申し出で、少なくともそのような事態は完全に避けることができると思う。
領地を持たず、自らの勢力を持たない私が、王への野心を燃やす訳はないだろうと、貴族達は考えるはずだ。そうすればランテ派は私への警戒を解くだろうし、反体制派も城に留まる私を操って謀反を起こすことは難しいと判断するだろう。

執務室から自分の部屋に帰る途中、私はリリアノの言葉を考えていた。
「そんな宝石ごときで将来のかかった事を決めるほど、レハトは愚かではないと思うがな。」
この言葉はある意味では当たっているし、また別の意味では外れている。
リリアノは、私が領地を放棄し城に残る建前として、紅玉の下賜を申し出たと考えていた。
確かにある意味ではそうだ。単純に領地を放棄し、城に留まりたいと申し出ても、ヴァイルがすんなり受け入れたかどうかは怪しい。彼は変なところで疑り深いのだ。私にどんな他意があるかと妙に勘繰っただろう。けれど紅玉を取引の対象にしたことで、彼はすんなり私の提案を受け入れてくれた。紅玉があったことで、城に留まることがすんなり決まったと言っていい。
けれど、今回私が手に入れるだろう三つ、つまり紅玉、城に留まる権利、城に留まるに相応しい名分となる国政に携わる何らかの役職、その三つの内、私にとって一番大事なのは、紅玉だった。
そんな宝石ごとき、とリリアノは言ったが、私にとっては人生を賭ける取引をしてでも手に入れる価値のある、重要なものなのだ。

篭りの前にあの紅玉がどのような経緯で城の宝器庫に入ることになったかを調べた。
その時私は知ったのだった。
あの紅玉はもともと彼女の手にあるべきものなのだと。

四代の治世にて、税の代わりに己の家の家宝を納めた貴族達が少なからずいた。
彼女の祖父にあたる今は亡きサナン伯爵は、人づてに聞いた話だと、かなり出来た人物であったらしい。サナン領を良く治め、民から慕われる慈悲深い人物であったそうだ。四代の無茶な収税に対しても、民に負担を掛ける事はせず、ダリューラ分裂戦役の前からサナン家の家宝として大事にしていたあの紅玉をあっさり四代に献上した。

紅玉はこのルランテでは採ることができない。壁の向こう側でなければ手に入らないものだそうだ。しかもあれだけの大きさと輝きを放つあの紅玉の、宝石としての価値は計り知れない。それだけ価値のあるものを私が身につけているのを見るだけでも、貴族の女性達は羨望と嫉妬の眼差しでみることになるだろう。
まして、サナン家の正当な後継者で、あの紅玉の本来の持ち主であるはずの彼女が見たらどう思うだろうか。
私はこの紅玉を私が身につけているのを見て、内心悔しがる彼女がどのような表情を浮かべるのか見たかった。そのために今回の取引をヴァイルに申し出たと言っても言い過ぎではなかった。
お前が持っているものを全て奪ってやる、そのような意思を彼女に示すためには、この紅玉はうってつけの道具だったのだ。私は、この紅玉を彼女に見せつけることを想像し、密かにワクワクしながら自らの部屋へ引き揚げたのだった。


某侯爵の子息とのダンスを終えた後、壁際で一休みしてから、私は談笑している一団に加わるため近づく。そこではランテ派の主要な貴族達が固まって会話をしている。
私は自然な笑顔を浮かべ、一礼をして挨拶をしながら、彼らの顔色を窺う。
さすがにまだ、警戒の色は隠し切れていないが、無視するのも不自然なので、彼らも挨拶を返してくる。
私は、彼らに、この城に留まる事、ヴァイルからこの城に関わる役職を与えられた事、領地と引き換えに紅玉をねだった事を自然な流れで彼らに伝える。これから、色々指導してほしいと下手に出ながら彼らにお願いをしたのだ。
最初は警戒していた彼らだったが、私にわだかまりがない様子なのを見ると、だんだんと緊張の色が薄れてくる。加えて、私が領地を放棄し、王に近い立場で国政に携わる事を知った彼らは私の意図を感じ取ったようだ。表情が硬かった彼らも、私との会話を進めるうち、だんだんと打ち解けた様子になり、軽口や冗談なども自然に交わせるようになっていく。そのうちに、彼らの子息を次々紹介され、私の周りには自然と人だかりができるようになったのだった。
彼らとの和解は思いの他、すんなりいったようだ。
先ほど踊った某侯爵の第三子の子息も遠巻きに見ているようだったが、こうなれば彼は私には必要なかった。もっと条件のいい貴族の子息達と会話することに私は徹する。彼らと会話をすると、彼女に習った会話術や情報がいかに役立つものなのか実感することができる。加えて私の美しさは彼らの目をくらませるのに、十分役にたったようだ。
どの相手との会話も、盛り上がることができ、明日から始まるだろう彼らからの訪問や贈り物を私は密かに期待するのだった。

少しちやほやされていい気分に浸っていたが、私は遠くの方で彼女が会話している姿を見かけて、気を取り直す。
そろそろ彼女と直接会話をしなければならない。
私は周りの人たちに、少し休むと告げてその場を離れ、彼女の元に向かう。

彼女の元へ向かいながら、私は胸が高鳴るのを感じる。
ここまでの私は完璧なはずだった。私はランテ派との和解も完全に済まし、彼女の企みを完璧に防いだはずだ。
私は貴族として上手く振る舞えていたでしょう?
そう彼女に問いかけたくてたまらなかった。
私は、貴女よりも注目を集め、貴女よりもちやほやされ、貴女よりも美しく生まれ変わった。
見下していた相手がこの貴族社会の中で、貴女より優位に立っている。
貴女はそれを見てどう感じるのか、是非お聞かせ願いたいと、私は彼女に問いかけてみたかったのだ。
今、私は完全に彼女より優位に立っている、そのような優越感に浸りながら、彼女の元に一歩一歩ゆっくり近づいていく。

私が近づいていくと、彼女も私に気付いたようだ。彼女はいつもと変わらない笑顔で私に語りかける。
「まぁ、レハト様お久しぶりですわね。ふふ、随分と美しくなられて、私までうっとりしてしまいますわ。」
彼女はまるで、何事もなかったように語りかけてくる。私はその姿を見て、憤りを覚える。とてもその笑顔だけみると、私を殺そうと貴族達をけしかけた人間とは思えない。
けれど、私も彼女に倣って怒りを表に出さないよう笑顔を作った。
「ちょうど今レハト様のお話をさせて頂いていたところでしたのよ。本当にお美しくなられて、男性達が皆、心奪われている様子でしてよ。」彼女は楽しそうに笑いながら語りかけてくる。これが彼女の本心なのかどうかわからない。けれど、心の内のことなど、舞踏会の場では出してはいけないのだ。余裕を失ったら負けてしまう。
私は内心では、お前のものだったはずのものを私に奪われた感想はどうだ、と彼女に問いかけたかったが、そんな風に下品に聞いてしまったら私の負けなので、笑顔で、今日のコーディネートはこの紅玉を映えさせるために選んだがどうだろうかということを問いかける。
「ふふふ、レハト様はご存知なのね。その胸元に輝く紅玉が誰のものだったかを。けれど、とてもお似合いですわよ。私、本心から申し上げているのでしてよ。その紅玉はレハト様に相応しいものですもの。」彼女の目が妖しく光っているように見える。
「その紅玉の別名をご存じかしら。それはレンディマの涙。そうです。あの聖書の一節に出てくるレンディマですわ。」
神学には疎かったが、レンディマの一節は聖書の中でも有名なところなので知っていた。レンディマは確か初めて魔と取引をしたものだ。
「レンディマは魔と取引をした印を背負い、神の前で涙を流したとされていますわ。『レンディマは悔やみ泣きはらしたが、もはやそれはけして消えることはなかった』有名な一節ですわね。その時レンディマが流した涙は純粋な後悔の色に彩られて美しいものだったのかしら、それともその涙にも魔との取引の色が濃く映って醜いものだったのかしら。私達に知る術はありませんが、その紅玉を初めて手にした我が家の祖先は、その深く美しい輝きと血のように赤い不吉な色が同居する様をみて、レンディマが流した涙に例えたそうですわ。」
その言葉を話しながら、彼女の目に宿る妖しい光はますます強くなっていくように、私には感じられた。
「レハト様。わたくし、こう思うのです。レハト様の額に輝く神の徴と、その胸に渦巻く私達貴族に対する憎悪。その二つが混ざり合う時、まさしくレンディマの涙のように美しく醜いものが混ざり合い、強い輝きを放つのではないかと。」
彼女は強い視線で私を見据えたまま語り続ける。私は彼女の目を離すことができない。
「『レンディマよ、己の引きずるものを見よ。』レンディマが引きずっていたのは、何だったのかしら。神殿では概ね、それは我々の影ではないかと考えられているようですわね。つまり、影を持つ我々皆が魔と交わる罪人で、我々皆の内に、魔が入り込んでいるという意味だそうですわ。だとしたらレハト様、あなたほどレンディマの涙に相応しい方はいらっしゃらないわ。私達にある心の中の魔、つまり悪意や憎悪、嫉妬や欲望などははっきり自覚できるけれども、神から授かったものなどははっきりとは自覚できませんもの。けれど、レハト様にはその額の印がおありになるわ。私達貴族に対する憎悪が深ければ深いほど、ますますその神からの寵愛の証は光り輝くのだと、わたくしには思えてならないのです。レハト様が貴族達を憎んでいるにも関わらず、この上無く貴族らしく振る舞われる様を見ると、レハト様の内にある魔がこの上無く強く輝いているように見えますわ。そしてその額の徴が、その分一層神々しく輝いて見えますもの。レハト様の今のお姿こそ、レンディマの涙の異名に相応しいものですわ。」
私は憤っていたことも忘れ、彼女の言葉を不思議な気持ちで聞いていた。自分が褒められているのか貶されているのか、馬鹿にされているのか憐みをかけられているのかまったくわからなかった。ただ、不思議と、もっと彼女の言葉を聞いていたいと感じられただけだった。本当ならば彼女が紅玉を持つ私に、嫉妬しているのか、憤りを感じているのか、奪い返そうと企んでいるのか、その反応を一番知りたかったはずなのだが、もうそんな事はどうでもよくなっていた。

そこへ彼女の父親であるサナン伯爵が通りかかる。
サナン伯爵は私の胸元の紅玉を一瞥し、一瞬苦々しい表情を浮かべたが、すぐに表情を変え、笑顔で私に挨拶の言葉をかける。
私も気を取り直し、笑顔と挨拶の言葉と恭しい一礼を返す。
「レハト様はすっかり、舞踏会の華でいらっしゃる。あちらこちらでレハト様の噂ばかりが聞こえてきますぞ。うちのユリリエとも仲良くしていただいているそうで、これからもユリリエといいお付き合いをして頂きたいと常々思っておりますよ。」
恐らくサナン伯爵も私と彼女との間の不穏な関係を知っているとは思うが、そんなことはまるで知らないとでもいうように微笑みを浮かべながら話しかけてくる。

すると、突然サナン伯爵がよろめき、倒れこみそうになるのをユリリエが手をとり支えた。
「お父様どうなさったの?先日召された風邪がまだ治らないのかしら。」
「あぁ、今年の風邪はやっかいらしい。なかなか熱も下がらんし、頭痛も治まらん。今日の舞踏会はこれくらいで引き揚げることにするが、お前は気にせず楽しむといい。レハト様、お会いできて光栄でした。今日は体調が優れないので失礼させて頂きます。また近いうちゆっくりお話する機会でも持ちましょう。」
私は、サナン伯爵の様子を見てある確信を持った。長引く発熱と頭痛なんてまるで産みの繋がりのようですねと、私はさらりと言ってのける。
その瞬間サナン伯爵の顔色が青ざめたのがわかった。
「ははは、ただの風邪ですよ。御冗談を。それでは失礼します。」そういってサナン伯爵は逃げるようにその場を立ち去る。

残されたユリリエは私の言葉を不審に思っている様子だ。彼女は知らないのだ。当然だろう。このことを知っているのはサナン伯爵と相手の女性と私と、今回の事を手伝ってくれた私の協力者数名だけだ。彼が使用人の女性、私が密かに手配した女性に誘惑されて関係を持ち、今サナン伯爵は産みの繋がりの最中なのだ。

まさか、その女性が私に雇われたものだとは、サナン伯爵は夢にも思わないだろう。その女性は今、使用人を辞め、サナン伯爵が用意した別宅におり、ひっそりと産みの篭りを迎えている。そのお腹の子が生まれれば、サナン家、もしくはヨアマキス家の爵位の後継者として名乗らせ、彼女と争わせるつもりだ。サナン家の唯一の正当な後継者だったはずの彼女は、父の隠し子と家督争いをするはめになる。噂好きの貴族達はその様子を面白がって詮索するだろう。

家督争いの最中に何か事件でも起きれば、サナン家とヨアマキス家の爵位が剥奪される可能性もある。私が篭りに入る前に準備しておいた罠に、サナン伯爵は見事に引っかかってくれた。篭りの前に集めた情報では、彼女の致命的となるような事柄は見つからなかったが、彼女の両親、サナン伯爵とその夫人の夫婦仲は冷めきっているという情報を得た。私はそれを知り、私と同じように彼女を憎んでいる数名の貴族達と共に計画を立て、今回の事を企てた。

私はあえて彼女の前で、産みの繋がりを口にし、彼女にさりげないヒントを与えた。それを彼女が気付き手を打つのか、それとも見過ごし危機を迎えるのか。今度は私が攻撃する番だ。

私は彼女に笑顔を作りながら、そろそろ失礼する、お大事にと伯爵にお伝え下さいと彼女に言い残しその場を離れる。
すると、彼女が私に声をかけ引き留める。私が振り返ると、彼女は笑顔で語りかける。
「レハト様、前にも申し上げた通り、わたくし、貴女をここに連れてきてくださった神に本当に感謝しておりますわ。貴女という存在は、本当に私に素晴らしい楽しみを与えて下さるのですもの。信じて下さらないかもしれませんが、これからも貴女とこうして向き合える機会を持ちたいと心底願っておりますのよ。私はけしてこの場から逃げ出したりしませんし、きっと貴女もそうされるでしょう。この場から逃げ出したものが負けたことになるのですもの。ふふ、私は負けませんわ。また、必ず、来月の舞踏会でお会いしましょう。」
えぇ、必ず。と私も笑顔で答え、また別の貴族達と会話をするために踵を返す。

彼女との対面は本当に楽しかった。私は浮かべていた笑顔が、心の底から自然に溢れてきたものだと気付いた。
もしかしたら、私は彼女の事が好きなのかもしれない。初めてそう感じた。
私は振り返ることなく歩き続けた。
そうだ。また来月彼女に会えるのだ。
この舞踏会は彼女と私の闘いの場であり、大きな遊戯場だ。私は彼女に相応しい人間として彼女に立ち向かい、彼女も彼女らしく振る舞い続ける。
そうやってこれからも、私と彼女の遊戯は続けられていくのだ。
時には私が優位に立ち、時には彼女が優位に立つだろう。
命の危険にさらされることもあるかもしれない。
けれど、けして逃げない。
けして退かない。
彼女と私が唯一向き合える場がこの舞踏会なのだから。

私はこれからも彼女と闘える事に喜びを感じ、彼女に相応しい人間として闘うために、貴族達の輪の中に加わる。
貴族達は皆楽しそうに話している。語られる話題が次から次へと生まれ、終わることなく語られ続ける。私もその輪の中に加わり、会話を続ける。

こうして舞踏会はまだ終わることなく、まるで永遠に続くように、いつまでも談笑の声は響き続けるのだった。

AUTHOR / 作者 joeさん

その8ラストです。

無駄に長文です。
読んで下さったかたありがとうございました。